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故に問う勿れ、誰が為に鐘はなるやと

まあ物置のようなもの。

濱口桂一郎『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』 抜書きとちょっぴり感想 その1

第1章「就職」型社会と「入社」型社会

1.「ジョブ型」社会と「メンバーシップ型」社会

p.29~p.30

 …「人」と「仕事」の結びつけ方を決める決め方には、大きく分けて2つの異なったやり方があります。

 第1のやり方は「仕事」の方を厳格に決めておいて、それにもっともうまく合致する「人」を選定するやり方です。

 第2のやり方は、まず「人」を決めておいて、「仕事」の方はできるだけ緩やかに、それを担当する「人」の持ち味をできる限り発揮できるように決めていくというやり方です。…

 

p.33~34

 これに対して日本では、…多くの労働者がぶら下げているレッテルは、私はこの「仕事」がこのくらいできますというレッテルではなく、私は何々という会社の社員ですというレッテルです。

 これは先に述べた「人」と「仕事」を結びつける第2のやり方、つまり「人」の方を先に決めるやり方に由来するのです。…就く可能性のある様々な「仕事」について、はじめはおぼつかなくても仕事をこなす中でできるようになっていく潜在能力があるかどうかという点です。つまり、「仕事」よりも「人」の特性の方が重要なのです。

 

p.35

 すなわち、「仕事」をきちんと決めておいてそれに「人」を当てはめるというやり方の欧米諸国に対し、「人」を中心にして「管理」が行われ、「人」と「仕事」の結びつきはできるだけ自由に変えられるようにしておくのが日本の特徴だということです。

【感想】

「人」と「仕事」の結びつけ方について、「仕事」が先に立つ欧米型と、「人」が先に立つ日本型の違いとが、平易かつ簡明にまとめられている。 

 

2.どのように会社に「入る」のか

 ○新卒定期採用方式というユニークなやり方

 ○欧米諸国の欠員補充方式

p.40

 欧米諸国の企業における人の採用のやり方の原則は、「必要なときに、必要な資格、能力、経験のある人を、必要な数だけ」採用するということにあります。 

  ○欠員補充方式の具体的なやり方

p.42

…欧米で一般的な欠員補充方式では、社内でまかなえない欠員が出て初めて採用が行われるのです。

 ○「入口」を特定するかしないか

p.42~43

 日本の新卒定期採用方式では、企業への「入口」が新規学校卒業時という特定の時期と年齢層に限定されているのに対して、欧米諸国の欠員補充方式では、「『入口』が企業組織のどこにでも、そしていつでも誰に対しても開かれている」という点で全く異なります。

【感想】

欧米では「仕事」が先にありきということはぼんやりと知っていたが、欠員補充方式の具体的なやり方を初めて知った。ありがたい。

一方で、現在勤務先で行われている所謂「中途採用」では、「どこにでも、いつでも誰に対しても開かれている」というわけではないが、先に求人募集の要件(例:●●という業務の経験者)が定められており、かつ概々の労働条件の「枠」が示される。そして、その採用は第一義的には当該業務の担当部門が判断している。人事部は、そうして採用内定した中途採用者を、職能資格等級のどこに位置付けるかにつき判断している。つまり一応は「仕事」が先にありきで、その後で「人」につき判定される。更に、処遇の詳細については、中途採用者とのネゴが行われる。

このことは、「新卒定期採用方式」と矛盾しない。中途採用が「新卒定期採用方式」の例外として処理されるのであろう。

 

3.日本の法律はジョブ型社会が原則

 ○働く人は「社員」ではない

p.50~51

 …雇用労働者も請負人も受任者も、使用者や注文者や委任者と同じ団体のメンバーとして働くのではなく、それぞれとの取引関係に基づいて働くということが、最大の共通点です。つまり、雇用契約は法律上においてはメンバーシップ契約ではないのです。

 日本の現実はメンバーシップ型で動いているけれども、日本の法律は欧米と同様のジョブ型社会を前提に作られている。この事実を、ここで頭に入れておいてください。

 ○労働法もジョブ型で作られている

p.54~55

 …ここでも重要なことは、「団体交渉」というのは、同じ会社という団体のともにメンバーである使用者側と労働組合側とが、その団体の内部で交渉するという意味では全くないということです。…

 …この「団体」というのは、主として労働組合という労働者の集団のことを、場合によっては使用者団体という使用者の集団のことを指しており、個別の労働者(や使用者)ではなく集団としての労働者(や使用者)が取引の主体になるという意味なのです。ということは、別の面から見れば、労働組合というのは企業と取引関係にある雇用労働者のカルテル(事業者間で価格や数量を協定すること)ということもできます。

【感想】

勤務先の企業内労働組合の役員を務めていた折、長時間労働の適正化に取り組んだ。主たる活動は、三六協定の締結状況を洗い出して、会社側に対し、ライン管理者の部下の時間管理を適正化するよう要求し、実践状況の報告を求めるというものだった。一方で、組合員の中でサービス残業をしている者を呼び出して、これをやめさせるという取り組みも行った。その取り組みの中で、私はかかる組合員に対し、サービス残業は労務供給価格のダンピングだ、と説得したことを覚えている。あながち間違いではなかったのかもしれない。

 

 ○職業紹介は「職業」を紹介することになっている

 

4.「入社」型社会はどのように作られた?

 ○「メンバーシップ型」という言葉の出所

 ○「就社」より「入社」

 ○確立以前

 ○新卒定期採用制の形成

 ○戦時体制下の採用統制

 ○新規中卒者の定期採用制度

 ○新規高卒採用制度の確立と変容

p.66

 新規高卒採用制度の特徴は、高校と企業との継続的な取引関係の中で、企業はよい労働力を安定的に確保でき、高校はよい就職先を安定的に確保できるという相互にメリットのある「実績関係」の上に成り立っていることです。この関係を維持するために、高校生の就職では、学校の推薦で1社のみ応募する1人1社制が守られました。

 ところが1990年代からこのメカニズムがうまく機能しなくなりました。景気後退に加えて大卒者の増加により新規高卒者への求人が激減したのです。その中でも工業高校など専門高校にはまだ前記のような伝統的モデルが残っていますが、普通科高校の非進学者などは自由市場に投げ出されてしまい、その結果かなりの高卒者が非正規労働力に呑み込まれていきました。

 彼らこそいわゆる就職氷河期世代、ロストジェネレーションといわれる人々の中心です。…

【感想】

ここまでの歴史的概観は非常に面白い。特に戦時体制下の採用統制については初めての知見であった。この部分と赤木智弘氏の「希望は戦争 丸山真男をひっぱたきたい」との関連が説明されればもっと良かった。ないものねだりではあるが。

 

 ○大卒者の増大と学卒労働市場の変容

p.67~68

 かつての中卒者のように職安が介在しているわけでもなく、高卒者のように高校が介在しているわけでもないのに、企業は学生の採用基準を具体的なジョブに対応する職業能力ではなく、大卒者としての一般的能力に求めました。新規高卒採用制度とともに確立した単一職能資格制度の下においては、もはや大学で具体的に何を学んだかは対して意味を持たず、大学の銘柄に示される大学入試時の学業成績こそが、入社後の教育訓練に耐えうる「能力」を指し示すものとして主たる関心の対象となったのです。

 ところが1990年代以降、経済の停滞の中で正社員雇用が縮小し、その影響で新規学卒者の採用枠が急激に縮小しました。一方で文科系学部を中心として大学定員の拡大は続いたため、大学を卒業しても正社員になれない若者たちが「フリーター」として大量にあふれ出したのです。

 

5.法律と現実の隙間を埋めるルール作り

 ○現実に合わせるために

p.68~69

 そこで日本の裁判所は、さまざまな事件に対する判決を積み上げる中で、解雇権乱用法理や広範な人事権法理など、判例法理といわれるルールを確立してきました。それは、ジョブ型雇用契約の原則に基づく法体系の中で、現実社会を支配しているメンバーシップ型雇用契約の原則を生かすために、信義則や権利濫用法理といった法の一般原則を駆使することによって作られてきた「司法による事実上の立法」であったといえます。

 そして、これら判例法理が積み重なり、確立するにつれ、日本の労働社会を規律する原則は、六法全書に書かれたジョブ型雇用契約の原則ではなく、個々の判決文に書かれたメンバーシップ型雇用契約の原則となっていったのです。

 ○「入社」を拒否することは違法でない

p.72~73

 しかしながら、日本の最高裁判所は1973年の三菱樹脂事件判決において、信条を理由として雇入れを拒否することを違法でもなければ公序良俗違反でもないと容認しました。…

 ここに表れているのは、特定のジョブにかかる労務提供と報酬支払いの債権契約ではあり得ないような、メンバーシップ型労働社会における「採用」の位置づけです。それは、新規採用から定年退職までの数十年間同じ会社のメンバーとして過ごす「仲間」を選抜することであり、その観点から労働者の職業能力とは直接関係のない属性によって差別することは当然視されるわけです。

【感想】

学生運動を理由として本採用を拒否された事例は知っていたが、これを是とする理路は初めて知った。勉強になる。

 

 ○内定者は労働者である

p.73

 現在の最高裁の判例法理では、採用内定はそれ自体が労働契約の締結であり、内定者は労働者であるということになっているのです。

 

p.76

 いったん付与したメンバーシップの剥奪に対しては大変慎重な姿勢で臨んでいるわけです。…

 

6.周辺化されたジョブ型「就職」

 ○ハローワークは誰のためのもの?

 ○「就活」は「職探し」に非ず

 

【第1章の感想】

★「ジョブ型」社会と「メンバーシップ型」社会との違いが鮮やかに示されている。

★会社への「入り方」に関し、欧米の欠員補充方式の具体的なあり方が良く分かり、初めての知見を得られて嬉しい。

★「入社」型社会の来歴が手早くまとめられているが、戦時統制下における展開につき、もう少し詳しい記述が欲しかった。

★日本の労働法体系における判例法理の位置づけが明快である。「司法による事実上の立法」と喝破している点は白眉。

 

…続きは明日以降に。